「児童館だからできることがある」
そう信じて援助を続けたい
S児童館の館長の吉田さんには、何年たっても忘れられない事例があり ます。それは、今は社会人になっている一樹くんとそのお母さんを支え、
奔走した日々のこと。子どもたちの生い立ちや性格を把握し、学校の垣根 を超え、地域ぐるみで成長を見守る��そんな児童館の役割について、改 めて考えさせられた事例だったからです。
一樹くんとそのお母さんは、一樹くんの小学校入学と同時にこの地に転 入してきました。人なつこく優しい性格の一樹くんでしたが、知的発達遅 滞がみられ、小学校の途中から特別支援学級に移ることになりました。普 通学級に通えないこと、せっかくできたお友達と疎遠になったこと、どち らも一樹くんにとって受け入れがたいことでした。近くに親戚がいないこ
環境の変化や孤独感が 不登校につながる
さまざまな理由で学校に行きたくない、行けない状態になる「不 登校」。こうした問題を抱えた子どもたちが来館した時、児童館 ではどんな援助をすべきでしょうか。地域も巻き込んだ、包括的 な支援のあり方を探ります。
ソーシャルワーク実践課題
S児童館の取組み例
事例⑥
第2 章◎事例から学ぶ 事例
不登校
ともあり、お母さんも不安を抱えるようになりました。S児童館では、そ んな一樹くん母子を何かと支援していました。
「学校がつらい」気持ちを抱えたまま特別支援学校の中等部に進学した 一樹くんは、マンガやアニメに熱中するように。次第に、昼夜が逆転した ような生活を送るようになりました。もともと対人関係が不得手なことも あり、学校にはうまくなじめないままのようでした。児童館でもそんな一 樹くんをできる限りサポートしていましたが、3年生の夏休み明けにとう とう「登校できない」状態に陥ってしまったのです。
しばらくは家からも出られなかった一樹くんでしたが、児童館には時々 姿を見せるようになりました。小さな子どもの遊び相手になっている一樹 くんに、吉田さんは「児童館の手伝いをしてみないか」と声をかけました。
それまで中学校と連絡をとる中で、「完全にひきこもった状態よりも、児 童館だけでも外出できるのは進歩だ」という意見をもらっていたからです。
「学校の代わりだから、毎日来ないといけないよ。できる?」
「��うん。できると思う。」
一樹くんが真剣な顔でうなずいたのを見て、吉田さんは改めて中学校に 連絡をとり、ひとまず児童館で預かりたいことを説明しました。そして、
特別支援学校の高等部進学を控えた一 樹くんが一日も早く学校に戻れるよう、
学校と児童館が協力して対応していく ことになりました。
一樹くんは児童館に毎日「登校」し、
事務作業などを手伝うようになりまし た。吉田さんは、そんな一樹くんを「本 当は学校に行くべきだよ」と励まし続 けました。学校の先生も、授業のプリ
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児童館への「登校」を、
学校への復帰の足掛かりに
ントを届けに児童館を訪れるなど熱心に対応してくださり、やがて「プリ ントの提出」などの名目で少しずつ通学できるようになりました。
吉田さんをはじめスタッフが安堵しかけていた頃、「事件」が起こりまし た。児童館で、一樹くんが暴力をふるってしまったのです。相手は、一樹 くんと同じようにマンガやアニメが好きで、仲良くしていた小学生。学校 に行けないことをからかわれ、つい手を上げてしまったと聞いて、吉田さ んはそれまでよかれと思ってしていた援助が表面的なものだったと気づき ました。
「『学校がいやだ』『友達とうまくいかない』��不登校の原因は解決して いない。それなのに私たちは、一樹くんを無理に登校させるよう仕向けて いた。これでは、つらさを倍増させるばかりではないか?」
吉田さんは、一樹くんの通う学校、そして被害を受けた子が通う小学校 に連絡をとりました。そして、双方からの要請を受けて合同の保護者会を 開催。2つの学校の保護者が一堂に会する中で、一樹くんの行為を振り返 るとともに、背景についての理解を求めました。また、再び学校に行けな くなった一樹くんのために、本人とお母さん、そして大学生ボランティア をまじえて話し合いの場を設けました。「一樹くんが周りの人からの信頼を 取り戻すには、どう行動すべきか」「自分の将来について、一樹くん自身は どう考えるか」などみんなで一緒に考えてもらいました。
「子育てが間違っていたのではないか」��そんな責任を抱え込んでいた お母さんのケアも、児童館が受け持ちました。日々の相談にのり、中学校 の面談に付き添う一方で、地域とのつながり作りをサポート。こうした活 動を通じて、今回の事件が単なる「加害者と被害者」で割り切れないこと、
そして「頼ったり頼られたりはお互いさま、当たり前」といった共通認識が、
人々のあいだに育っていきました。
周囲の空気が変化するにつれて、一樹くんの表情も明るくなりました。学
不登校 事例⑥
地域ぐるみで支えながら、
自分の問題として考えさせる
第2 章◎事例から学ぶ 事例
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校の先生も、自宅まで迎えに出向くなど、登校しやすい雰囲気づくりに尽力。
そして2月の終わり、一樹くんは再び学校に通えるようになったのです。
一樹くんの援助をする中で、吉田さんは葛藤に苛まれました。「一体どこ からどこまでが児童館の職域なのだろう?」「一樹くんやお母さんにとって、
児童館は都合のいい逃げ場所になっていないだろうか?」。
また、吉田さんが最も苦労したのは、児童館の役割や施設の特性について、
学校に一から説明しなければならないことでした。「子どもに関わるという 意味では近い場所にいるはずなのに、互いの役割についての理解が足りな い」。大きな問題意識を感じました。
周囲の人々の理解を得るのも大変なプロセスでした。とくに気を遣った のは、「本来なら学校にいるはずの中学生が児童館に終日いる」ことに対し、
疑問を寄せてくる他の利用者への対応でした。丁寧に事情を説明すること で納得してもらえるケースも多く、さまざまな立場の人がさまざまな理由 で利用する児童館ならではの課題を考えさせられました。
その後、一樹くんは無事に高校を卒業し、社会人として活躍しています。
進学や卒業など、人生の節目には必ず来館し、近況報告をしてくれる一樹 くんを頼もしく眺めながら、吉田さんは複雑な想いにかられることがあり ます。すでに 18 歳になり、児童館が援助すべき年齢を過ぎている一樹くん。
しかし今後、恋愛や結婚、育児、最愛なる母との死別など、一樹くんが人 生のつらさに向き合う時、それを支えるのは自分たちだという自負もある のです。
「児童館だから、垣根を超えた支援ができた」「児童館だから、成長を長 期的に見守れる」��貴重な示唆を与えてくれた、一樹くん母子との関わり。
吉田さんは、これからも「児童館だからこそ」の活動を続けていこうと考 えています。
「どこまで」 「いつまで」が児童館の役割なのだろう
児童館だから できることが あります。
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不登校 事例⑥
ひと口に不登校といっても、その原因は色々あるはず です。「友達関係がうまくいかない」「やる気が出ない」「勉 強についていけない」……。一概に決めつけず、子ども の話に耳を傾けることが必要ですね。単に「学校に行き なさい」「家に帰りなさい」では、問題は解決しません。
その上で、学校と連絡を取り合い、お互いがどんな役 割を分担していくかを話し合いましょう。こうしたケース では、多くは現場の裁量で対応策が決まるため、「こうす るべき」という決まりごとはありません。「通学する代わ りの場所を提供する」「相談タイムを設ける」など、ニー ズに合わせた対応を考えてみてください。
子どもたちが乳幼児の頃(時には胎児の時、家族も含め)
から、小学校、中学校、高校と継続して見守っていける のは、児童館が地域において果たしている重要な機能で す。だからこそ、子どもたちも「あそこに行けば、自分の ことを知っている人がいる」という気持ちで児童館を訪 れています。このような状況において、児童館の職員に 求められるのは、良い意味での「近所の親切な人」的な 感覚。子どもが気楽に立ち寄れる居場所を作りながらも、
解 説
解説:大竹先生
不登校に陥った子どもの支援は、大変デリケート な問題です。一人ひとり抱えている問題も課題も背 景も異なりますので、ケースによってはこの事例の ように「受け皿」として児童館が機能しているケー スも多く、その判断は現場の裁量に委ねられている のが実情です。どう学校や地域に働きかけ、どんな 方向に導いていくべきか……。こうしたソーシャル ワークの視点からの取組みは、とても参考になる事 例だと思います。
できる